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金剛堂日記


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うう……頭痛が痛い(?)
よろしければ1からご覧くださいませ~…

人格崩壊注意です。






崩落する外壁。

粉々に砕かれた石畳。

逃がしたはずの人々は、いつのまにか外堀を埋めるかのように折り重なっていて。

嘆きの声が、すすり泣く悲哀が、そこかしこから滲み出す。

だが、スクアーロの耳には何も届いてはいなかった。




V&B~神と魔術と滅びの予言~ 2





友が、死んだ。

ぶすぶすと燻る、街の入り口であった門を背に、団員たちは憔悴しきっている。

街を強襲した黒い魔物の群れはなんとか退けることに成功した。

が、痛みは確実に降りかかる。

痛みのない戦いなどない。

一際大きな魔物、だろうか。

人の身の丈の五倍はある黒い影が皮膚に張り付くコケのような毒を撒き散らしながら襲い掛かってきたのだ。

覆われる街並み。

倒れ伏す人々の体には黒い斑点が浮き上がり、急速に猛威を振るう毒なのだということが誰の目にも明らかだった。

全ての攻撃を、毒を、俺が受け止められればよかったのに。

この身はすでに呪われているのだから。

なのに。

「……う゛お゛ぉい…!テュール…!」

庇いきることなど、できないのだ。

全てを守り、覆い尽くすほどの技量も度量も、俺にはない。

老いて皺の刻まれた手をとれば、まだ滲むようなぬくもりが肌に伝わる。

この手を最初にとったのはいつのことだっただろうか。

小さな諍いで国が荒れたときだったろうか。

剣を握りたいのだと笑う彼を祝福したときだったろうか。

それとも。

「スクアーロ」

「…なんだぁ、バジル」

「拙者は、テュール殿から委ねられたものがあります」

ぐっと握り締めた拳を胸に当てながら、バジルと呼んだ少年はスクアーロの背へと呼びかける。

「貴方から、受け継がれる意思を」












スクアーロの教えに耳を貸さず、切り込み隊長を気取っていた青年がいた。

彼は親代わりであり、剣の師ともいえるスクアーロに尋ねられる。

『お前は、本当に強い心を持っているのか』と。

力強く、迷い無く頷き、洞窟に飛び込む青年の前に現れたのは今までになく凶悪な魔物。

彼はその殺気に動けなくなってしまった。

襲いくる死に怯え瞼を閉じたその時、駆けつけたスクアーロは

「しっかり見てろぉ!」

魔物に斬りかかっていった。

魔物はスクアーロの胸に牙を立て、スクアーロも退かず、両者は組み合わせたパズルのように対峙した。

スクアーロの胸からは血液が流れ出し、しかし彼は青年に、何度も伝えた教えをもう一度投げかける。



「大事なのは間合い。そして退かぬ心だ」と。



青年はようやくその教えを理解し、瞳に光を宿す。

スクアーロの胸に残る、一生――否、永遠に消えぬ傷。

幾年、幾十年、幾百年を経ようとも、彼の命が消えぬがゆえに。

スクアーロは言った。

これを『借り』と呼ぶな。どうせなら『恩』にしろ、と。

自分は恩を返さなければならない。

けれど、自分の一生ではそれは足りない。

だからお前を育てた。

お前に、俺とは違う形であろうと、戦う術と、生きる意味を。

託すために。









「スクアーロ、貴方は、立たなければならないのでしょう」

「………馬鹿な野郎だな…お前らは…」

子が子を産み、育て、またその子も子を産むのなら、この世界は流れ続けていくのだろう。

果てしない時を。

そうして、俺は…。

「輪廻を外れた俺が、いまだに死んでいく人間達を達観できないのは…お前らが傍にいるからなんだろうな」

肺の上辺りに刻まれた、肌を引きつるように刻まれた古傷。

痛むことはない傷跡。





『永遠を生きなさい』





いつかの声が、脳裏にこだまする。

「拙者たちは、貴方の傍らから退くべきなのでしょうか」

「…馬鹿が」

徐々に温度を失っていく手を、胸元で折り重ならせる。

人は生まれ、必ず死んでいく。

その命を拾い上げた瞬間から、俺はそれを覚悟していたはずなのだから。

「葬儀の段取りはお前に委ねていいかぁ?テュールの一番弟子」

背後に立っている少年を振り返りざま立ち上がったスクアーロは、反動をつけながら手を伸ばす。

クシャリ、と。

突き放すように前髪を掻き上げてやったバジルの頭は、突然の行為にポカンとした反応を示すだけで。

「――あ、貴方は!」

「ちょっと頭冷やしてくる。年寄りの出番は後でいいだろぉ?」

ひらりと片手を振り上げて、緩やかに丘を下っていく後ろ姿を、溜息混じりの微笑みでバジルは見送ったのだった。





人は老いるものだ。

テュールは、自分の限界を知っていた。

もう自分は力にはなれない、と。

彼が退団を申し出てきたのは記憶に新しい。

それを引き止めたのは、俺だ。

俺の傍にいるのが自然で、かつ俺の傍にいたいと言ってくれるのは長い年月の中でもテュールただ一人だったのだ。

他の団員達は、スクアーロの傘下にありながらスクアーロ自身の傍にいたいと望んでいるというわけではない。

山賊団を慕う理由は様々だ。

だから…戦力でなくていい。ただ、存在してくれればいいと。




願ったことが、彼の死期を早めてしまったのかもしれない。





「くそぉ……!」

一人きりの泉で、スクアーロは膝をついた。

打ち付けた拳が水面を叩き、水柱がスクアーロの顔面を叩く。

髪を伝い、額を流れ、頬を滑る水滴がスクアーロの思考を冷やすようで。

「……またひとつ、増やさなきゃならねえなぁ…」

スクアーロの左腕にはタトゥが刻まれている。それは犠牲者への弔い。

自分の誤りで失われていった命たちへの、せめてもの祈り。

またひとつ、刻まなければ。





「スペルビ・スクアーロ」

リン、と。

軽やかで高らかで、耳に涼しい鈴の音が響く。

俯けていた顔を、自然と上げてしまうほどの引力。

そこには炎と違う光が舞っていた。

黒衣を纏った小さな、人型の生き物。

それは遠い遠い昔に見失ってしまったはずの種族……妖精、のようで。

「な……」

「頭がたけえぞ」

赤子のようなその容貌にそぐう高い声。

鈴の音を散らして飛ぶ、黄色の光を煌かせる妖精。

それが示す先にいたのは。







「顔を上げなさい、破滅の予言を回避する者」




眩い光がバサッと開いた翼によって放出される。

荘厳な光を孕むのは、鳥にも似た…けれど白鳥のそれより美しい真白の両翼。

見下ろす顔が少し斜めに傾いでいるからか、ふわりと揺れた髪が光の粒を弾くかのように煌いた。

纏う白い衣は身体の曲線を如実に示し、頭の頂点から足先手先まで洗練された美しさを見せつけているようで。


「予言が、動き始めました」


静かに語りかける声には心当たりがあった。

フードを目深に被った、あの子供。

街が破壊される寸前、「戻れ」と命じてきた、あの――。

「999の年」

ぱらり、とめくり開かれたのは携えていた豪奢な本。

金色と赤褐色の縁取りが施された、やけに分厚い書物を、たおやかな指先がなぞっていく。

「闇の眷属の、最も邪悪なる魔が目覚める。

彼は南の地に目覚め、時を巡る。

次第に世界に絶望の種をまくだろう。

1099年

全ての世界。

砂褐色の空。銀色の月。

鳴り止まぬ不協和音。その矛に震える大地。

災いは巡る先に翼を下ろし、黒の根を張るだろう。

滑り落ちた涙。射抜かれる聖女。

世界は絶望にぬりつぶされている。

1099年

そして、全ての世界が、死ぬ。」

全ての、世界が。



どういうことなのだ。

一昨日の夜、盛大に催されたのは『千年祭』。

創世の神々が世界を創りたもうた折からちょうど千の年月を数えるという。

999の年は、もう、すでに…。

「どういう、ことだぁ…!」

「『月の年。火の年。

岩の塚に腐った蝙蝠がとりつくだろう。

そして火の年。南に目覚めし黒き無限の災、岩の塚を打ち砕き、やがて南の全ての地を赤く染めるだろう』

蜥蜴の侵略を食い止めることはできませんでしたが、貴方は黒き無限の災があの街から溢れ出すのを防ぎきったようですね」

琥珀とも黄金とも取れる、星屑を詰め込んだような瞳が、ゆっくりとスクアーロへ向けられる。

うっすらと赤らむ可憐な唇が、言葉を発するたびに胸の奥がざわめくのは、眼前の存在が宿す異様な力を感じ取っているからなのか。

「でも、破滅の予言は覆らない」

パタンと、音を立てて閉じられる重厚な書物。

改めて向き合った少年とも少女とも取れる不思議な、中世的な存在は、ゆっくりと歩みを進めてきた。

水面を滑るように、差し出されるたおやかな足。

「貴方は、俺のことを覚えていますか?」

一歩一歩確実に、静かな波紋を広げる水の鏡面。



「戦場の鬼神」


風が。

唇から言の葉が零れ落ちるたびに、ささやかな風が生まれ出でるようで。


「惨劇のディアボロス」


風に乗って耳朶に届く、その呼び名は。


「神殺しのスクアーロ」


かつての、俺の。


「俺を、覚えていますか、スペルビ・スクアーロ」


音もなく傍近くまで歩み寄った体躯から、白い腕が伸ばされる。

ひたりとふれる、冷ややかな指先。

頬を撫でる風のような感触。

きゅっと引き絞られた瞳孔が、曖昧だった記憶の一端を捉えはじめていた。






あと一回つづきます

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