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金剛堂日記


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午後からの視察が急遽中止になった旨を聞きながら、運ばれてきたお茶に手を伸ばす。
まろやかに広がる苦味の薄い紅茶が、鼻腔を抜けて、俺の脱力を誘った。
少し、疲れている自覚はある。
睡眠が足りないわけではないし、おなかが空いているわけでもない。
ただ……言うなれば、糖分が足りないのだ。
あらゆる意味での。
報告を終えたスーツの男の人が一礼するのに手を上げて微笑みながら、ふうと細く息を吐く。
無駄に入っていた肩の力を抜けば、どっと重みが掛かるように痛みが増した。
感知できないほどに、強張っていたというのか。
右手を左肩に掛けて揉み解せば、思いのほか気持ちよくて困る。
肩こりなんて、背負いたくないのになぁ……。
一人きりの執務室。
誰にも見られないという緩みにまかせて、今度は盛大に吐き出した溜息がポカポカ陽気の午後に影を落とす。
……ダメだ。腐り始めている。
余裕が持てなくなるのは、ダメだ。
咄嗟の判断を要される時、的確に物事を見られなくなるから。
しっかりしなければ。
けれど、そう思えば思うほど、思考の深みにはまっていくのも事実で。
「…はあぁぁぁ……」
視線をやらずに、机の右側の引き出しへと手を差し向ける。
一番上の、鍵付きの段。
今は施錠していない。
すっと引っ張れば、微かな擦れる音を奏でて中を顕にしたそこへと、ゆっくり視線を落とした。
自然と、瞳が細まる。
引き出しの一番奥。
俺が席を立つ際は必ず鍵をかけるそこには、リボンに口を括られた、ワインレッドを宿すベルベット地の袋が鎮座している。
深い緑のリボンの端を引っ張れば、シルクの感触を滑らせていとも簡単に口を開いた。
中には、色とりどりの銀紙に包まれたプラリネが、所々隙間を開けて転がっている。
「……遅いよ」
一日二粒までだからなぁ!と釘を刺されたそれは、今回、任務に出る前に食事を共にしたスクアーロから手渡されたものだった。
これが全部なくなるまでには帰ってくる、と言い切った奴は未だ戻ってくる気配がない。
遅いってば。
スクアーロがここを発った後に中身を数えてみると、五十個ほどのプラリネがぎっしりとつまっていたというのに……。
今はもう、両手で数えられるほどの数になってしまっている。
「『なくなるまでには』って言ったんだから……なくなった瞬間じゃ遅いんだからねー……」
長期とは聞いていないのに、未だに帰ってこない恋人へと、聞こえるわけのない文句を零しながら銀紙を摘む。
律儀に毎日食する自分もどうかと思うけれど……。
数が減るたび、どんどんモヤモヤしてくるような気もするんだけど……。
ちゃんと毎日食べてれば、早く帰ってくるんじゃないかな、なんて期待をしてしまう自分が女々しくてならない。
でも、やっぱり手は止まらなくて。
「あー……甘い」
口内に広がる甘みを噛み締めながら、俺はぼんやりと窓の外へ視線をやった。
遠くに線を引く飛行機雲が、目に眩しく写りこんだ。



03:3時の甘いおやつの時間

配布元
冷凍いちご 様
http://sky.geocities.jp/siromoti05/
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嫌な癖がついてしまっている。

午前中は、まず一日のスケジュールの把握と、昨日のうちに処理しきれなかった書類に判を押しきってしまう作業から始まる。
目を通す作業が完了しているものばかりだから、これは速い。
大方、獄寺君らが選別し、審査してくれている書類ばかりだから数は少ないはず、なのだけれど、それでもやっぱり中々手ごわい量なのだ…。
次の日に残す、というのはものすごく気が退ける。
でもどうしても残ってしまうものは残ってしまうのだ。
人と会う約束などもあるから、書類関係は遅らせられるのなら遅らせてしまう状態にある。
…気が退けてしかたがない。
そんなわけで、昨日の分はできるだけ早く終えてしまい、今日の分にとりかからなければならない。
左から一枚とり、サインをして、判を押して、右に寄せる。
それだけの工程。されど、それだけの工程。
単純作業ほど根気のいる作業はなく、地味に多くのカロリーを消費していく苦行なのだから。
午前中は大概、書類をさばくだけで潰れてしまう。
いいんだ。
それが仕事なんだから。
昼からは違った動きもあるし、単純作業が嫌いかといえばそうでもない。
でも……俺はこの書類たちとの格闘の日々に、大いに悩まされている。
何に困っているかって……それは…。
「失礼します、十代目!そろそろ――」
「あ、獄寺君!ちょっとまっ…」

ぐうぎゅるるるるるるるるるるぅぅぅ……

嫌な癖が、ついてしまっている。
……思うに、俺は相当、カロリー消費がスムーズなのだ。
盛大に鳴り響く腹。
扉を開け放ち、追加なのだろう、書類を片手に一歩踏み込んでいた右腕がピタリと固まったまま、動かない。
……穴があったら、埋まりたい。
というより、今すぐ掘って入りたい。
「う……ううぅぅぅ……」
両手で顔を覆いつくしているから、呻きはくぐもって室内に波を落とす。
指の隙間から覗き見た時計の針は丁度てっぺんで重なっていた。
ああ…まさしくお昼だ。
いい○も青年隊が歌い、踊り出す時間だ。
何故だか正午丁度に腹が鳴る癖がついてしまったため、お昼休憩だけは時計がなくとも正確に取れるようになった。
が、全然自慢になりゃしない。
「丁度お昼っすね!俺、何かつまめるもの持ってきます!」
「うん……ごめん、ありがとう獄寺君……」
しばらくぽかんとしていた獄寺君が、気にしていない、という様子で微笑みながら踵を返した。
うう……ホントに、ありがとう…。
昼ごはんは、食堂でとることになっているのだが、俺の場合は大概邪魔が入る。
急ぎの仕事の内容を伝えられたり、お偉方が話しかけてきてくださったりと、おちおち休んでもいられないのだ。
おかげで食事もろくに進められず、午後の仕事を始めた時にも腹に住まう虫が鳴きやまないことなど多々あった。
だから、食事に赴く前に、軽く何かを入れておく。
『腹が減っては鉄も斬れぬって言うだろぉ!とにかく何か食え!』
なら、お前は腹がいっぱいだったら鉄でも斬るのか、とツッコミたかったけれど抑えた俺はなかなか頑張った方だと思う。
俺の嘆かわしいお昼御飯事情を耳に入れた恋人が、眉間に皺を寄せながらわざわざ叱りに出向いてくれたのだ。
日本語の間違いは今更なので、脇に置いておくとして。
…言ってることはわからないでもなかったし、何より心配してくれてるんだなーって感じられて、嬉しかったから、ね。
……心配、してくれてるんだよね?
まあ、俺の勝手な思い込みでも一向に構わないんだけど。

獄寺君が調達してきたサンドイッチを口に放りこみながら、考えるのはスクアーロのことばかり。
あんなこと言ったんだから、スクアーロこそちゃんと食べてなきゃ……腹立つし。
無茶してなきゃいいけど。
今度満腹のときにでも鉄を斬ってみせてもらおう。
言ったことは証明してもらわにゃ。
うん。
そのためには、一緒に食事、しなくちゃね!
満腹にしなきゃいけないんだから。満腹に、させてやるんだから!

次、帰ってきたら、俺から食事に誘おう、なんていう決意を思い描きながら、俺はまたひとつパンの塊を口に突っ込んだ。

 

「ちょっとせんぱーい!王子に仕事させといて、何休んでんだよムカツクー!」
「んむ………何言ってんだぁ!お前が勝手に飛び降りてったんだろぉ!さっさと殺し始めたのはどこのどいつだぁ!」
くわえていた管から口を離し、今しがた殺しを終えて戻ってきた同僚に向かって吠える。
ターゲットを確認するために林立する家々の屋根を飛びまわっていたのだが、標的の位置、状態を確認するやいなや飛び掛っていったのは自称王子の方だ。
もともと一人でもなんとかなるような相手だった上に、奇襲をかけたのだから一人で大丈夫だろうと思って放っておいたのだ。
なにより、勝手に行ったのだ。
それで死のうが傷を負おうが知ったことではない。
屋根の縁に腰掛け、高みの見物を決め込んでなにが悪いというのか。
「つうか、それ……なに飲んでんの?」
「十秒メシ。飲んでんじゃなくて食ってる」
再び口に管を含んで吸い込めば、ゼリー状の物体が口内を満たしていく。
「それが飯!?ありえねー!そんなん食うくらいだったらディナーまで我慢してフルコース食った方が全然マシだっつの!」
「うるっせえ!終わったんならさっさと行くぞぉ!」
ガチ、と管を噛み、口に加えた状態で立ち上がって、腕に取り付けた剣を払う。
髪が風に弄ばれるから押さえつけながら。
これは両手が空くし、何より摂取時間が早くていい。
十秒もいらねえ。五秒でいい。
……何より、綱吉に昼くらい食えと言ってしまった手前、食わないわけにもいかなくなったのだ。
見えないし、知らせることもないから律儀に食わなくてもいい、という考えも脳裏をよぎりはしたのだが…。
あいつの、自分に便利な超直感が働かれても困るので、こうして毎食きちんと取る習慣が付き始めていた。
良いことなのか、悪いことなのかは……微妙だが。
「あ、そういやここから別行動って言ってたっけ。うっわー!なおさらムカツクー!どうせあそこ行くんだろスクアーロ!ムカツクー!」
王子まだもう一人殺んなきゃいけないのに!と悪態をつき続けるベルを置いて、俺はさっさと飛び上がった。
屋根伝いに、ひた走る。
戻ったら飯にでも行くか。あいつと。
などと、ぼんやり思考を巡らせながら。
アジアの風は、すこし湿り気を帯びていた。


02.12時に盛大に鳴るおなか

配布元
冷凍いちご 様
http://sky.geocities.jp/siromoti05/

日記連載、再び。
すでに付き合ってるスクツナ、ということでお願いいたします…!









頬の辺りへと、波紋がじわじわ広がっていく。
「ん……うんん……?」
次第に神経を揺らし始めた微振動は、水底から俺を吊り上げるように思考の覚醒を促した。
暖かく柔らかな真白のシーツが波打って、不快感を俺の真ん中へ注ぎ込むような、そんな……。
まだ、いやだ。
まだまだ、いやなんだ、けど。
眠りの水底から、銀の糸が俺の意識を引き上げる。
「うんんんん……」
ごろりと転がって顔面を枕にうずめながら、筋を伸ばして震源を掴み取る。
激しく震える固形物。
掌にすっぽりと収まるそれは、日本はおろか、世界のどこにいたってお電話できる優れものだ。
ヴヴヴ、ヴヴヴと一定の感覚で振動音を発し続ける携帯が、シーツを滑って指の隙間から逃げていこうとする……。
粘り強い電波の向こうの、発信者……。
発信、者?
「っ!はっ…!あ、あー!あーあー!!…うーん…ちょっと掠れてる…けど、とりあえず、いっか!」
背をすっぽりと覆っていたシーツを払いのけてガバリと身を起こした俺は、全体的にうっすらと汗ばんでいた。
けれど喉は渇いてかさかさで…声に張りも潤いもありゃしない。
前かがみにしゃがみこむ形で喉を押さえ、緩やかな弾力を伝えるベッドのスプリングの上、発声をしてみるものの、乾いた声がいきなり回復するなんてことはないだろう。
俺がもたつき焦る間にも、着信を知らせるディスプレイは震えっぱなしだ。
……待たせすぎるのも、よくない。
「ん゛ん!ああー!あー!…うん。ちょっとだけマシになった、かも。……よし…!」
朝、午前七時ジャスト。
日課といえる緊張が俺の肌をつつく。
嬉しくて、悲しくて、切なくて、楽しくて、胸が痛い瞬間。
「……もしもし?」
『やっと出たなぁ!また音消してやがったんだろぉ!』
しょうがねえ奴だなぁ…!と悪態をつきながらも笑みの空気を滲ませる声が、鼓膜を擽る。
むずがゆくて、だけれど棘のように、針のように痛い、愛おしい声音。
『そっちは晴れてるんだってなぁ。カーテン開けて、窓も開けちまえ。二度寝しないように、な』
〈そっちは〉という言葉に、俺は今日も落胆する。
朝一番に、大切で尊くて、大好きな人の声が聞けるのは、とてもとても嬉しい。
けれど、同時に突きつけられる〈彼が傍にいない〉という現実が、とてもとてもとても寂しい。
そうやって俺の頭は色んな感情に引っかきまわされて、許容オーバーしちゃって、もういちどシーツの海にダイブしたくなってしまうんだ。
何もかもを放棄して、眠りについて。
夢から覚めたら……次の瞬間には、もしかしたら彼が傍にいるかも、しれない、なんて。
『う゛お゛ぉい!綱吉!』
「ん。大丈夫、起きてるよスクアーロ」
ありえない夢を、そっと胸の奥底へと押し隠す。
ただでさえ〈毎朝のモーニングコール〉だなんてわがままを叶えてもらっているのに、これ以上困らせてどうしようというのか。
それに、俺は結構タフなのだ。
現に今だって……。
「スクアーロ、ケガとかしてない?」
『俺を誰だと思ってるんだぁ?お前こそ、一人でフラフラ出歩いたりしてんじゃねえだろうなぁ』
「フラフラって。まあ、どこに行くにも大概誰かが一緒だから、危ない目にあったりしてもなんとかなると思うよー」
『馬鹿野郎。危険性があるなら全力で回避してみせろぉ!俺が戻るまでにケガのひとつでもしてみろぉ……』
言葉の先がない。
くつくつと忍ぶような含み笑いが、耳朶を這うように撫でる。
……うん。ほら。俺は、大丈夫。
だって。
「努力、します……」
『ハッ!首洗って待ってろよぉ!』
「ええ?俺がケガすること前提で言ってる!?」
『そう思うってことは自信がないってことかぁ?』
「そ、んなことは、ないけど!」
『そうかよ……っと、あんまりのんびりもしてられないんだったか…。う゛お゛ぉい綱吉!』
「ん?」
だって、寂しいより、切ないより、楽しいより、嬉しいより…。
なにより。

 

愛しいと思う気持ちが一等強いから。

 

『Buon giorno. 今日もしっかり働けよぉ!』
「おはよう。スクアーロこそ、ね!」

通話を切ってしまう瞬間でさえ愛せるように。
そっと瞼を伏せつつ、思い出せる限りのスクアーロを思い描いて、噛み締めながら微笑んだ。


01.7時のモーニングコール

配布元
冷凍いちご 様
http://sky.geocities.jp/siromoti05/



material by アルフェッカ

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