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金剛堂日記


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12です!
前書きのバリエーションもなくなってまいりました。
それを、世間様ではネタ切れというそうです。
……すみません。
お時間がございましたら、お付き合いくださると幸いです。
そう、何かのついでくらいが丁度いいのだと思います(どうした)

お手間かと存じますが、初見の方は、1にございます注意書きからお目通し願います。
その方が、きっと、安全です(…)

ではでは、どうぞ~






「じゃあ行ってくるからね」
「みゃー」
「なー」
「留守番よろしくー」
「…………う゛お゛ぉい…」
館の正面玄関、ホールの真ん中まで見送りに来てくれたキョーコちゃんとハルを交互に撫でながら、俺は上機嫌で腰を上げた。
天気はすこぶるよろしい。
雲ひとつない突き抜けるような薄青の空は心を浮き立たせるばかりだし、柔らかさを増した風は冬を忘れさせるほどの温もりを纏っている。
スクアーロに頼んでどこからか出してもらった薄手のコートでも十分すぎるほどの気温はここ数日で珍しいほどの陽気だった。
計ったかのよう。
立派なおでかけ日和じゃないか。
「……う゛お゛ぉい!いつまで待たせる気だぁ!お前は支度に時間のかかる面倒くせえ女かぁ!」
「そういう言い方はないでしょー!女性には色々あるんだって母さんも言ってたし。っていうか第一俺男だよ」
「んなこた知ってんだよ!」
「だったら訊かないでよ」
「そういう意味で言ったんじゃねえ!」
「もーイライラしないでってばー」
折角の晴れやかな気分が台無しだ。
そりゃ、半ば強引に誘ったし、あれもこれもと計画して準備して鞄に詰めたりしていたから時間かかったわけだけれど。
……何が必要かとか、自分で考えるのも初めてだったし。
準備自体も楽しくてしかたなかったのだ。
ハンカチがいる。
ティッシュも必要。
出先で小腹がすくかもしれないから飴やチョコも忍ばせてきた。
雨具にお世話になることはないと思うけれど、濡れた時のためにタオルくらいは持っておいた方がいいだろうか。
とかとか。
鞄にぎゅっぎゅっと押し込める工程が胸を躍らせて、中々腰を上げられなかった。
チラリと見上げた壁の真ん中。……なんと、もう時計は正午へ至ろうとしているではないか。
約束は、忘れもしない十時のはず。
時間の経過を、忘れていただなんて。
「………待たせてごめん」
スクアーロが俺の支度が済むのを待っていてくれたことは事実。
部屋に乗り込んでくるわけでなく、俺が出てくるのを辛抱強く待っていてくれたのだ。
…もしかして、邪魔しないようにって、我慢してくれたのかな。
いざ行かん、って時に文句を言うのは嫌味っぽいけど、俺にも非はあるわけだし。
素直にポロリと零れ落ちた謝罪は小さかった。
けれど。
「……まあいい。とにかく行くぞ」
ふ、と溜息を落としてクルリと背を向けたスクアーロは、両手を伸ばして重い扉を開き、真っ直ぐに外へと歩き出した。
気配に、背中に、怒っている空気は混じっていない。
許してくれたかな。
――それとも怒ってはいなかった?
ん。
まあ、どっちでもいいや。
「待ってよスクアーロ!」
置いていかれないように。
「みゃーお」
「なーん」
「行ってきます!」
見送りの声を思わせる甘い鳴き声を発する二匹を振り返りながら地面を蹴る。
カツン、と鳴った踵が跳ねて、踊るように。
スタスタと前を行く背中を見失わないよう、俺は小走りで玄関を駆けていったのであった。




獄寺くんや山本に付き添われて、何度か訪れたことがあるはずの町並み。
均等な感覚で並び立つ街路樹。
昼日中だから灯りを落とし、沈黙を守る街灯。
目にしたことがあるはずの地面、すき詰められた石の赤茶色がどこか鮮やかなのは俺の気分によるものだろうか。
車で抜ける間に流し見たことは何度もある、色とりどりのショーウインドウも、気兼ねなく見つめることが許されるなんて。
「スクアーロ。なんか、すごい、ね」
「……そうだな。春が近いから置いてるものも華やかになってんだろぉ」
「うん。うん。そっか。そうなんだ。すごい」
スクアーロに抱えられて丘を飛び、森の抜けた先に広がる町は俺にとって新世界に程近い鮮やかさで目に映る。
落ち着きを促すように声を落としたスクアーロの解説は俺の受けた感想の的を射ているわけじゃなかったけど、ツッコミを入れる余裕もないまま。
地面に降ろされた途端飛び込んできた華やかな情報量に俺の脳は眩むばかりだ。
すれ違う人々、波のような幾重にも重なる会話と混ざり合う車の排気音。
高揚感を誘うが如く頭上から降り注ぐ音楽は軽やかなポップで。
どきどきする。
わくわくする。
ぞくぞくする。
もう、なんだろう。
言葉にするのも難しいほど、もどかしいほど高まる感情。
こんな風に、まじまじと、壁のように囲う背に遮られず見渡すことができるなんて。
「スクアーロ。スクアーロ!スクアーロ!」
「なんだぁ」
「お、俺はどうしたらいいんだろ!」
「…………とりあえず、ちょっと歩くかぁ?」
「う、うん!」
胸がいっぱいで、かるーく気が動転してしまった俺が真横に立つスクアーロの服の裾を握り締めれば。
「行くぞ」
「う、ん!」
皺になるからそれはやめろ、とやんわり解かれた指が、手袋に包まれた冷たい掌に包まれて。
いつもの俺なら幼児じゃないんだから大丈夫、と振りほどくはずの拘束も受け入れたまま。
きょろきょろと周囲を見回す俺の手を引きながらスクアーロが苦笑混じりに微笑んだのを、俺は視界の端っこでちゃんと見ていたりした。
そんな顔もするんだ。
俺の記憶にあるスクアーロの笑顔は意地悪そうなしたり顔か、瞳がゆらゆらと揺れたままの不安定な微笑みか、だったから……。
そうだ。
俺はあんまり、っていうか結構、全然。
スクアーロのこと知らないんだ。
「ん?なんだぁ?」
俺に見惚れてたのかぁ?などと。
にや、と見慣れた笑みが俺を見下ろす。
……あー…うん、まあ、いっか。
そんなに気にすることじゃない、よね。
「自意識過剰!」
それでもやっぱり見つめられるのには耐えられなくて。
ぷいっと顔を逸らしながら、繋がれたままの手をひっぱって、スクアーロごと人波へとダイブした。




「う゛お゛ぉい!いきなり走るなぁ!」
「お?あれ?スクアーロってやっぱり陽の下だと体力ごっそり落ちてたりするの?」
人通りの多いメインストリートを下り、軒を連ねていた店の姿がまばらになり始めた頃合。
突如増えた樹木の向こう側にだだっ広い芝生を見つけて駆け出した俺の背中へとスクアーロの怒声が飛ぶ。
おや?と思って振り返れば、珍しく小走りなどしているスクアーロがいたりして。
いつもならどんなトリックを使っているのかわからないくらい自然に気配を消して、俺の背後に現れたりするのに。
「モンスターやドラキュラと一緒にしてんじゃねえ!こんな往来で目立つ行動とれねえだけだぁ!」
「人の目は気にするんだ」
怪人なのに。
常識も偏見も無用。
屋敷の屋根から飛び降りたって無傷の無敵なお人が今更何を。
顔だけでなく身体全部でスクアーロへと向き直りながらも足は動かしながら、俺は小さく首を傾げた。
ピョンピョンと跳ね回るように後退しながら、追ってくるスクアーロを待つように。
時折よぎる視界の端には草の上に寄り添って座るカップルやボールを投げ合って遊ぶ子供達、お弁当を広げる家族なんかもちらほらと。
でも、姿も気配も消せるんだから、さほど問題ないと思うんだけどなぁ。
「認識してねえだけだぁ。それをソレと思って見ているわけじゃねえから何も気付かない。だが…一度認識されてしまえば後には引けなくなるだろぉ」
「ばれたら……く、口封じとかしなきゃなんないから?」
「……それもないわけじゃねえが、何より面倒だからな」
色々と。
大股で俺の真横にまで辿りついたスクアーロは、語尾を濁しながらにゅっと手を伸ばしてきた。
何事!?と身構える暇すら与えられないまま、大きく開いた掌は俺の頭部をガッシと掴んで。
「それはそうと、いい加減落ち着けぇ!」
いつまでもはしゃいでんじゃねえガキ臭ぇ!
なんて言いながら俺の頭を前後左右、縦横無尽に振り倒した。
脳が…脳がシェイクされる!!
「い、いいじゃ、んかー!公園っていうのも初めてなんだよー!」
「この年で公園デビューか!だからって幼児に戻るにゃ体が成長しすぎだろぉ!おら!寄り道は終わりだぁ!」
「うーわー!ちょっとくらいいいじゃんー!」
「お前の『ちょっと』は全然『ちょっと』じゃねえことが今日証明された!」
なんでさー!ちょっとだけじゃん!
とジタバタ抵抗する俺をもろともせず、グイグイ引っ張るスクアーロの先導によって、公園を抜け、噴水の横を通った時。
木々の隙間から垣間見えた時計塔。
物見やぐらのようなこじんまりとしたものだけど……注目すべきはそこじゃない。
………あちゃあ。
無意味に色んな店を覗いて回ったのがいけなかったのか。
商店の列が終わっても強引にスクアーロを連れて町を練り歩いたのがいけなかったのか。
日差しの色の変化にも気付かないまま。
――あ。
意識した途端、身体の真ん中から出てきた振動と呻き声。
ぐうう、と。
空気が潰れるような感触と音色。
古ぼけ、くすんだレンガに包まれた、時計の針は直角L型。
食事を一回すっ飛ばしたおかげで小腹どころかおなかペコペコで、午後のお茶の時間を迎えてしまったのだった。
 

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