遅くなってしまいすみませんっ!
9です。終わりません。全然終わりません。
もうしばらく…続きます。
どうしたものか……。
今回は短いです。前回の半分以下の長さですよ!がんばりました!(それもどうなの)
お付き合いくださりありがとうございます!
「か……は…っ!」
膝から力が抜け落ちて、絞めつけられていた首が宙へと投げ出された瞬間、世界から解き放たれる意識の片隅に誰かのかすれた吐息が聞こえた気がした。
「ツナ……」
器官に詰まりそうになる空気を咳払いで肺へと押し込めながら、スクアーロは腕の中の存在へと意識を引き寄せる。
硬く暗く冷たい石の床へ頭部を打ちつける間際、間一髪で阻止することが叶ったツナの身体はぐったりとスクアーロへとしなだれかかっていた。
耳の下、顎骨と首との境に手を差し入れて息を殺せば、確かな脈動を感じることができる。
「――はっ…」
乱れる呼吸の中に安堵を織り交ぜたスクアーロは、ぶれる視界を奮い立たせ、俯かせていた顔を上げた。
片膝をつき、肩を抱きこむようにツナを抱えなおしながら瞳孔を引き絞る。
ツナにとっては闇の塊でしかなかった空間も、スクアーロの眼には違った世界が映っているのだ。
『騎士のお出ましにしちゃやけにタイミングがよかったな。謀ったか?』
「ザンザス…」
声と同時に、ツナが開けた扉が集中を乱すが如く大きな音を立てて閉じた。
先ほどまでツナの透き通るような白い細首を掴んでいたのであろう手をブラブラと振って払いながら、ニヤリと口角を引き上げた男。
漆黒に漆黒を重ねた出で立ち。
滴る血を直に注ぎ込んだような紅い瞳。
無造作に下ろされた前髪が揺れる度、肩に引っ掛けただけのようなコートが無遠慮にはためいている。
風などあるわけがないのに。
背後で閉じた扉は木板の中に鉄板が仕込まれている。
館の中でも特別閉ざされた場所――そこで、風を纏っているなどと。
黒の中の黒。
闇の中の闇。
深遠と混沌を纏う覇者。
「何故、ここに、いる」
『俺がどこにいようと俺の勝手だ』
仁王立ちでスクアーロとツナを見下ろす男――ザンザスは、途切れ途切れに言葉を紡ごうとするスクアーロへ嘲笑を差し向けた。
『てめえが俺を把握する必要はない』
眼が潰れそうな闇の中でも、一段浮かびあがるように色濃く映る男の姿を視界に収めながら、スクアーロは細く長い息を吹き出す。
把握する必要はない。
奴がそう言うのならそれを受け入れるしかないにしても……。
「見当はついてるぜぇ」
『ハッ。――――気に食わねえ』
吐き捨てるように息だけで嗤ったザンザスは表情を一変させ、瞳を凍らせた。
瞬時に下がった口端と共にスクアーロの上体が崩れる。
右肩を、黒のつま先が踏みつけたのだ。
「ぐっ…!」
石畳と有無を言わせぬ強制力に挟まれ、圧迫された肺から抑圧された悲鳴が零れるのを自覚しながらも、スクアーロはツナの身を庇うことに全霊をかけていた。
絶対的な暴力から逃れる術も抗う技も持ち合わせてはいない。
受け流すしか選択肢がないのなら、と己の身も省みずスクアーロはツナを両腕で抱き締めた。
意識がないことに、この時ばかりは感謝を。
「自分のリミットくらい、自分でわかる」
『リミット?終わりか?ふん。終わるものか。いつまでもどこまでも、愚かに繰り返すだけだろう』
「………今日はやけに饒舌だな」
『――ドカスが』
微かに肩を床へと繋ぎとめる足から力が抜けた、と感じたのも刹那。
下腹部へと振り下ろされた靴底によって臓腑が波打つ。
容赦のない圧力が招く胃液の逆流を持てうる力でなんとか抑制するものの、苦痛に濡れた呻きは漏れて。
「ふっ―う……!」
『不毛だな』
その健気さも何もかも。
道端の小石を蹴り飛ばすようにスクアーロのわき腹をひと蹴りすると、興味を失った素振りで顎を上げた。
見下す視線で二人を眺め、瞼を閉じる。
足先から、手先から。
溶けるように、霧散するように。
闇と同化していくザンザスを見送って、スクアーロはゆっくりと背を浮かせた。
腕の中に庇ったツナを抱えなおしながら、瞳を細める。
『せいぜい楽しませろ』
「……奴隷よりも畜生よりも劣るお前の下僕へと下るのは…俺で十分だろう」
脳に響く声音を反芻しながら、スクアーロはザラリと髪を垂らせてツナを覗き込んだ。
閉じた瞼と唇を順に親指でなぞりながら。
ゆっくりと瞬きを繰り返して。
「ツナ」
複雑な色を含んだ呟きと共に見上げた中空は全てを拒絶する闇だった。
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