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金剛堂日記


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5つ目です。
なかなか終わりが見えてきませんが…大丈夫でしょうか?
お、お付き合いくださりありがとうございます!!
初めてご覧いただく方は、どうぞ1にございます注意書きをお読みいただければと思います。
ではでは、どうぞ~





「ほあああああ!」
「うぐお!」

反射的に突き出した俺の足の裏は、見事スクアーロの鳩尾へと吸い込まれた。
後ろに仰け反りながらもフラフラと上体を保つなんて…さすが怪人。
だなんて!感心してる場合じゃない!
「な、何しやがるんだぁ…!」
「それはこっちのセリフだー!!」
一瞬…一瞬?いや、一瞬なんかじゃない。
何が起こったのか俺が把握するまでの五秒間くらい、押し当てられていたはずだから。
なんてこった。
なんてこった!!
「キ、キキキキキスとか…!」
なんでしたんだよ!って訊く前に声が喉で詰まってしまう。
生々しい弾力が、いまだに貼り付いているのだ。
指先で何度も擦って消そうと試みるが、感触も、温度も、弾力も……むしろ増していくようにさえ思える。
ありえない。酷い。
だって、だってだって。
「はじめて、だったのに…!」
挨拶の『ほっぺにキス』は幾度となく交わしてきたけれど、唇だけは己が決めた最愛の人に捧げなさいと母さんに言われてきたから。
とっておいたのに。
守っていたのに!
会って数日しか経っていない他人…それも男によっていとも簡単に奪われてしまうだなんて…!
悲しい、とか悔しい、とかじゃない。
……胸が痛むほど、情けないのだ。
「ムードもロマンもないじゃんかぁ…!」
「……お前、問題はそこなのかぁ?」
夢見ていたのだ。
いつか、心の底から愛した人と…願わくば可愛らしいふわふわの女の子と、一日楽しく過ごした後、別れ際、互いに愛を告げあって、それで…それで…!
それなのに!!
「俺、全然考えてなかったのに!そんな雰囲気なかったじゃん!」
「それはお前が感じてなかっただけだろぉ…」
「俺の理想!俺の夢がー!返せー!スクアーロの馬鹿野郎ー!」
「う゛お゛ぉい!何泣いてんだぁ!」
「誰が泣くかぁ!」
ベッドの上で尻餅をついたような格好のスクアーロへキッと視線を突きつければ、気圧されたのかスクアーロは唇を引き結んで息を飲んだ。
眉間の皺が小さくなって……微かながらもバツの悪そうな空気を醸す。
微か、だけどね。
「…………」
「う゛………」
誰が泣くかと言いつつ、頬の丘を登り、なぞるように滑り落ちていく生暖かい感触の自覚はある。
次々に落ちていく雫を、止める気はなかった。
無言の号泣の力は家人の全てを平伏させるほどの威力があるということを、俺は自宅ですでに実証している。
ここぞという時の武器。
本当に本当に涙が流れていたたまれない時だけに発動する最高の技。
「……わ…わる、かった…」
それは彼にも有効らしく、敗北を受け入れるが如くがっくりと首を落としながらの謝罪をもぎ取ることに成功した。
さらら、と流れ落ちた銀の髪がカーテンとなってスクアーロの表情全てを覆い隠してしまったことは残念極まりなかったけれど。
「唇はやめて。唇は」
「唇じゃなかったらいいのかぁ」
「挨拶なら……慣れてる、から」
ここね!と指で指し示した頬をちらっと見上げたスクアーロは「そっちの方がよっぽど恥ずかしいだろぉ」と小さく呟く。
何言ってんのさ。西洋人なのに。




「……謝っただろぉ」
「うん。謝ったね」
「だったら…」
「何」
「いい加減、泣き止めよ」
そんなこと言われたって。
武器とか技とか言ったけど、その実狙って出来る芸当ではないのだ。
自然と溢れて溜まって、流れる。
それを有効活用しただけだもん。
涙自体の生成を、意志で止めることは俺には不可能だった。
泣きたくて泣いてるんじゃないから。
気持ちはどことなくざわついているけれど、精神は落ち着いているのに。
鼻をすするでも、嗚咽を繰り返すでもなく、ただただボロボロと出てくる涙。
昔から時折起きた現象だけど、何故だか今回はやけに長い。
……情緒不安定なのかな、俺。
「何か、面白いことでもしてよ」
「は!?」
「気が紛れれば、止まるかも」
「………」
気持ちを完全に切り替えることが出来ないからこんなことになってるんじゃないかと思うわけだ。
だって、どんなに気を落ち着けようとしたって唇に纏わりついた感触は一向に消えてなくならないし、指先に宿る小さな振動はまるで甘い痺れ。
そしてどう足掻いても、スクアーロが俺のファーストキスの相手に変わりはなく、て…。
なんて考えると余計に涙が勢いを増す。
嫌悪……っていうよりは……驚愕?
びっくりしすぎちゃって止められない?みたいな?
乙女か俺は。
「……一人で暇、なんだよなぁ?」
「え?あ、ああうん。そうだよ」
「俺も相手してやるが、いつでもベッタリいられるわけじゃねえ」
「あーそりゃあそうだろうけど」
俺だって、四六時中スクアーロと対面し続けるのはさすがにごめんだ。
インターバルは必要だし、傍にいすぎるのも居心地が悪い。
「だから……気は乗らねえが、こいつらにお前の相手をさせる」
パチン、と。
スクアーロの指が小気味良い音色を響かせる。
手袋してるのにどういう仕組みなの!?と目を見開いた――その時だった。




「みゃあーお」
「なーん」




顔面めがけて、真正面から。
黒い毛の塊が飛びかかってきた。


「ほぎゃ!ふも!な、なにご、と!?」
「う゛お゛ぉい!馬鹿猫がぁ!やめやがれぇ!」
髪の毛を掻き分けて、しがみつく黒の塊は、口を開く度に口内へと長い毛が入り込む熱を持った物体で…。
なーん、なーんとしきりに鳴く声から察するに……。
「猫?」
「う゛お゛ぉい!窓から捨てるぞ馬鹿猫!」
ベリ、と派手な音でも聞こえてきそうなほど四肢をめいっぱい広げた状態でスクアーロに引き剥がされた黒……黒猫は、宙にぶらさげられながらもじたばたともがいている。
爪を引き出し、尻尾をばたつかせる様はどこか滑稽だ。
「この、頭の悪い黒がハルで、そっちのいくらかマシな白いのがキョーコだ。煮るなり焼くなり蒸すなり、好きにしろ」
なんで調理法を列挙するんだ。
「わっ白猫もいたんだ」
「みゃあ」
ベッドの端にちょこんと鎮座した白猫は一瞬置物のようにさえ見えたけれど、俺が瞬きをする間に、応えるように鳴いてみせた。
黒猫…ハルはふわふわと長い毛足を揺らしながら、スクアーロに放り投げられるままベッドへと着地する。
やはり、猫は猫。
四つの足で何事もなく降り立ちながら、スクアーロにそっぽを向いた。
……なんか面白い。
「ハル、とキョーコ…ちゃん?キョーコちゃんは行儀いいなぁ。ハルは、頼むからもう飛び掛ってこないでよ」
ね?と首を傾げて二匹を交互に見やれば、丁寧な足取りで俺の傍へと歩み寄ってきた。
左右から挟み込むよう、二匹同時に頭をこすり付けてくる様は…やっぱり愛らしい。
長毛のハルに対して、キョーコちゃんは短毛。
二匹とも丁寧なブラッシングが施されているのか、頭へと差し出した掌に触れる毛並みは極上のシルクを連想させた。


と。


なんだかチクチクするような視線を感じる、と顔を上げてみれば…。


「………」
「どうしたの、スクアーロ」


唇を開き、両口端を下げ、片眉を器用にしかめながら半眼。
嫌なものを見るような目つきのスクアーロは今にも「げぇ」と声に出しそうな様相で腕を組んでいる。
「拾い食いでもした?」
「誰がするかぁ!…まあ、とにかく、そいつらはお前に預ける。基本的にお前の傍にいるだろうが…時折姿を消しても心配すんな」
必ず戻ってくる。
そう言いながらはぁ、と溜息を吐き落としたスクアーロは腰に錘を据えたような緩慢な動きでベッドから立ち上がって。
「もうすぐ食事の時間だ。行くぞ」
顎でクイっと扉を指し示した。
「…あ。う、うん」
さっさと一人で行っちゃうんじゃなく、一緒に向かってくれる辺り、本当に放置プレイは撤回した、のかな。
「お前も、大概単純だな」
「?何か言った?」
「――いや?何も」

いつの間にか消えた涙。
泣いていた事実さえ忘れて。
目に見えるスクアーロの変化に頬を緩ませながら、俺はドアノブに手を掛ける彼の背を追って立ち上がったのだった。

「なーん」
「みゃーお」
軽やかな足取りで、俺に続く二匹と共に。

 


 

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