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金剛堂日記


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四つ目です。
更新が遅れて申し訳ございません!
そしてまだまだ終わりそうにない!
お付き合いくださりありがとうございます!
初めての方は、どうぞ1の注意書きをお読みいただいた上でお進みいただければ幸いです。
お手数おかけして本当にすみません!

では、私の妄想劇場にお付き合いくださる方はどうぞつづきへお進みくださいませ…!




「………あー……」
ゴロリ、とベッドに転がりながら両手両足を伸ばす。
緩く大きく寄る皺の間を縫ってシーツの波を泳ぎながら、あくびをひとつ。
数時間前に食べた朝食はすっかり身体に吸収されて、生ぬるい気だるさが身を包み始めた頃合。
…さて、どうしたものか。
影が差し、薄暗くなった天井を見つめながら考えるフリをしてみる、が…。
「暇だー……」
俺がこの黒の館で目覚めて三日が経とうとしている。
時計のない室内。
当初は俺の感覚を狂わせていくんじゃないかと不安がよぎりもしたけれど、実際過ごしてみてそれが杞憂だということは身をもって思い知った。
それというのも、食事の時間を指定されたはいいものの時計がないのにどうやって、と首を傾げていた俺の疑問とともに解決されてしまったからだ。
のんびりゴロゴロと過ごしていても、その時がくれば飛び起きざるをえない。
なぜならば。
「………部屋変えてもらおうかなぁ…」
チラリと視線を窓の外へと投げれば、窓枠の端に寄り添うように、すこーしだけ覗き見える塔がある。
まるで、図ったかのように真横。
地震が起きて倒れてきたなら真っ先に潰されて死ぬのは俺だと思える近距離。
いや、そんな可能性の薄い事象は横に置いといて。
……問題はその突端だ。
ツンととんがった黒い屋根の下、柱しかない吹き抜けのような状態のそこには随分くすんだ輝きが吊り下がっている。
それも、ひとつじゃない。
ここから見るだけで4つは確実に連なっている。
あれが、だ。
朝、昼、夜。
俺に食事の時間を知らせるためが如く、鳴り響くのだ。
もう一度繰り返しておくと…近距離で。
図ったかのように、真横で、だ。
そのたびにうつらうつらと舟を漕いでいても飛び起きざるをえないし、起きていても心臓が止まりそうなくらいびっくりするし、窓ガラスはビリビリするし、床も軽く振動するし!
「日毎に寿命が縮まってる。絶対」
思い出しただけで強まる心臓を抑え込むように、左胸辺りの服を握ればベッドに溶け込む白にも皺が寄った。
何故か揃えられていた俺サイズの服。
ラインナップはどこか古めかしく、スーツや燕尾、物語の中の貴族様が身に付けるような豪奢な上着など普段から着込むにはいささか勇気のいる品ばかりだった。
おかげで、今の俺は白のワイシャツに比較的動きやすい紺地のパンツだ。
下手をすればどこぞの学生のようである。
「………はぁ」
と、状況をさらって思考を回すものの……俺の暇人加減が薄まることなどなくって。
することなど何もないのだ。
俺が必要とされる場面に出くわすことがない。
食事はいつも、俺が食堂に足を踏み入れた時点で全て用意が整っている。
庭の手入れ…なんかはほぼ完璧に出来ていて、時折スクアーロが草を抜いているのを見かけたりするだけだ。
館の主人なはずなのに雑草抜きをしているのはなんだかおかしいけれど、本人が自主的に行っているなら止める必要もないだろうし。
掃除?
いや…それも俺が手を出す必要性など微塵も感じない様相なのだ。
何より、掃除なんて生まれてこのかたしたことないから、ヘマをやらかすに決まっている。
しかも……不思議なことに、俺はいるはずの使用人さんたちと誰一人出くわさないのだ。
お目にかかったことがない。
気配もない。
だから、手伝いをかって出ることもできないわけだ。
さて、どうしたものか。
俺の存在価値は、この館にも、ない。
………なのに、どうしてスクアーロは……怪人は俺を攫ったのだろう。
食らうわけでもなく、殺すわけでもなく。
「どういうつもりなんだろう……スクアーロ」






「呼んだかぁ?」






「ほばぁ!?」
「……お前…毎度奇声を発しないと気がすまねえみたいだなぁ…」
ごろり、と寝返りをうって窓に背を向けた瞬間、突然背後から声が降ってきたら、誰だって驚くに決まってるじゃん!
ビク!と跳ねた肩ごしに振り返れば…案の定というかなんというか。
はああ、と長い長い溜息を吐き出しながら腕を組むスクアーロが立ち尽くしていた。
そう。
スクアーロは、俺が呼べばすぐさま現れるのだ。
どういう仕組みかはわからないけれど、俺に気配をまったく悟らせず、決まって背後に立つ。
どこにいても。
庭にいても、食堂にいても、応接間にいても、玄関ホールにいても。
俺が彼の名を口にするだけで、彼はすぐさま参上する。
怪人故?と首を捻りつつ、部屋中、館中を探ってみたけれど…トリックらしいトリックも見つけられないまま。
理由を聞いても「お前が呼ぶから」とはぐらかされるし。
とにかく…なんだ。
心臓に悪い環境には違いない。
「スクアーロさぁ…」
「ん?」
かといっていちいち驚いていたんじゃ、心臓がいくつあっても、寿命が何年あっても足りやしないからね。
三日で俺も学習した。
ツッコミを入れてたらキリがないと。
なんで?なんで?と尋ねたところで流されるんだから、そこにひっかかるくらいなら他のことを尋ねた方がよっぽど生産的なのだ。
「なんで俺をここに連れてきたの?」
故に、直球。
どストレートの球を投げ込んでみる。
ベッドから背を上げて座りこみながら、一瞬だけ目を丸くしたスクアーロを見上げて言葉を待つ。
「ま、えにも言っただろぉ!ただの暇つぶしだぁ!」
あ。今ちょっとつまった。
「それにしたって、スクアーロが俺で暇をつぶすことなんてないじゃん。俺がスクアーロを呼ぶことがあっても、スクアーロが俺を呼ぶことなんてまったくないし」
三日。
三日ここにいる間で、一度も。
俺がスクアーロを呼んで心臓をバクバクさせることはあっても、スクアーロが俺を呼びつけることは一度もないのだ。
暇つぶしのため、というなら俺に何かをさせるとか、自分の相手をさせるとか……色々あるはずなのに。
スクアーロが自ら、この部屋に尋ねてくることすらない。
俺が、名を呼ばない限り。
「ねえ、どういうつもり?」
「…お前は、他に行く所も、ねえんだろぉ。だったらここにいりゃあいいじゃねえか。問題も何もねえだろぉ」
ほら。
全然論旨が違う。
こうやってすぐ脱線させて、はぐらかそうとするんだ。
だけど、今日の俺は超鈍感でいくから。
はぐらかされてはやらない。
空気は、あえて読まない。
「それじゃわかんないってばスクアーロ。俺の存在価値、ないじゃん。誰にも会わないし会えないし…スクアーロだけが言葉を交わせるのに、スクアーロの方から俺に構ってくれることなんて、ないし」
正直参り始めている。
必要ないと言われているようで。
いてもいなくても同じ、空気になってしまうかのようで。
ちょっと怖くて、大分寂しい。
「ボードゲームはあるけど相手がいない。カードもあるけど相手がいない。食事は一緒なのに…席が離れ過ぎててわからない。味が、しない」
上座に向かい合う位置、丁度スクアーロと対面する形で毎度俺の席は用意されている。
けれど、テーブルは十六人掛けくらいの大きなものだから距離が果てしなく遠いのだ。
今とさほど変わらないはずの軟禁状態ではあったが、自宅では多くの人に囲まれていた。
触れ合うことが出来た。
だから……現状はとてつもない孤独感に晒されているようで。
心臓が、肺が、腸が、キュンキュン痛む。
「スクアーロが俺をどうしたいのかは、わからないけど……俺の話し相手になってくれるのは、スクアーロだけなんだから…だから」
思わずぎゅっと掴んだシーツはスベスベで、俺の居ぬ間にベッドメイクをしてくれた人に申し訳ない気がした。
でも、一分、一秒が過ぎ去る毎に、俺の指先の力は増していくばかり。




「俺に、もっと構ってよ!」




怪人相手。
有無を言わさず俺を攫った相手に対して言うべきセリフではないのかもしれないけれど、あふれ出る気持ちを抑えるつもりは俺にはなかった。
素直であれ、と育てられたが故。
箱庭のような優しい牢獄で生きてきたおかげで、俺の感性や感覚は常人離れしているのかもしれない。
町に下りたこともあるし、友達…獄寺くんや山本たちに接してきたから、自分がどこかずれていることも自覚がある。
でも、撤回はしない。
絶対しない。
俺を連れてきたのはスクアーロだ。
だから、スクアーロには俺の相手をする義務があるじゃないか。



「…お前って奴は……」
びっくりしたように目を真ん丸くして俺の話を聞いていたスクアーロは、すっと目を細めたかと思うと組んでいた腕を解きながら、ベッドの端へと腰掛けた。
サラリと肩から流れ落ちた銀糸に意識が奪われる。
「わざと、遠ざけてたっつうのによぉ…!」
「なんで遠ざけんのさ!意味わかんない!」
「自分で言うのもなんだが、俺は怪人なんだぜぇ?」
「聴いたよ!知ってるよ!」
…いや、知ってはいなかったけど。
だからなんだっていうんだ。
俺を放置した理由には足りないじゃないか。
「絶対、後悔するぜぇ?」
「後悔は後でするから後悔なの!するかどうかもわからない先のことなんて、わからないから考えたって無駄なの!」
自分で言っててこんがらがってきたんだけど…間違ったことは言ってない。
言ってない…はずだ。
「俺は今、ここで何をしたらいいのか全然わからない。簡単に言うと暇!だから、スクアーロは俺の相手をするべき!俺がここにいていい理由をくれるべき!おーけー!?」
勝手なことを、ここまで臆さず言えるのは多分、三日間で積もりに積もったストレスが俺の口を滑らせるせい。
それもこれも、全部スクアーロのせい。
うん、だから、きっと俺は悪くないんだ。
だから……お願いだから、否定しないで。
そっと頷いてよスクアーロ。





「――わかった」






俺の声なき懇願が届いたのか、スクアーロはフと息を吐いたかと思うと、緩慢に頷いてみせた。
パチリとひとつ瞬きを挟み、俺に注がれる視線。
……なんだろう。
とても、とても…急速に肺の辺りがざわめく。
「お前がそう言うならば、俺の望むがままに、俺の相手をしてもらうぜぇ?」
ぶつかってくる直線的な視線とは裏腹に、含みを持たせた微笑が口元だけに貼り付けられていて…。
「む?」
突如顎の先を、スクアーロの右手が掴んできたのに抵抗も出来ないまま。




「その代わり、俺だけを、見てろよぉ…?」




やけに熱い吐息が唇を掠めたと思った次の瞬間には、それ以上の熱と弾力がぶつけられていたのだった。

 

 

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