忍者ブログ
金剛堂日記


×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

今回もまた長々しいですよひゃっほう!
…金居です。
PHANTOM16回目です。
今回はまた変なところで切れております。それというのも、勢いにまかせて書いたはよかったのですが、入りきらないほどに長すぎたためでございます…。どうなってんだ私の脳みそ。
「あえて…あえて切るとするならば……こ、ここ、かな?」という、予定にない箇所で切ったために妙な尻切れトンボ感が漂いますがどうかどうかご了承くださいませ。
続きは近々。
一気に上げてもよかったのやもしれませんが………軽やかに焦らしてみたいと思います。全然焦らされるようなタイミングじゃないんですけれど、も…orz
少しでもお楽しみいただけますと幸いです!!
 






俺を抱えたスクアーロが柔らかく膝の屈伸で降り立った先は、黒の外壁がそびえたつ玄関前の石畳だった。
黒の館。
その名が畏怖をも孕むような印象を受ける姿へと変貌した、『怪人』の住処。
おかしな表現かもしれないけれど、黒い光を纏っているようにすら思える艶やかな黒。
薄汚れ、煤に塗れていたはずの、俺の知る『黒の館』とは違う異質の黒を宿しているその外観は、形こそ同じはずなのに見知らぬ根城のようで…。
胸がざわつく。
と、そんな俺の逡巡を知ってか知らずか、ふと身体が持ち上げられた。
米俵の如く担がれていた俺を難なく地面に降ろしたスクアーロの手は、名残すら惜しまぬ内にさっさと離れていってしまう。
――ああ、なんだろう。
言い知れぬ違和感が俺の中を再度ざわつかせた。
屋根を跳び、木々の突端を揺らしながら帰路を辿る間も、スクアーロはずっと無言のまま。
頬の赤みを引かせることに専念していた俺ですら、あまりのよそよそしさに首を傾げるほどだった。
スクアーロが、おかしい。
幾度目かの跳躍の最中、腰に回る手が無機質を思わせるほど事務的な硬さで俺を拘束する様も。
俺を降ろした途端、背を向けて館に足先を向けてしまったことも。
目をチラリとも合わせないそっけなさも。
何もかも。
いきなりの態度の硬化。
思わず振り返った視線の先。
銀糸を揺らす背中が俺を拒絶しているかのように見えて、声もかけられなかった。
置き去りにされた玄関先で、見えなくなるまで背を見送る俺の足は動かない。

ここは、どこだ。
まるで俺の知らない場所のようではないか。
俺の存在を拒むが如く立ちはだかる黒を、俺は知らない。
あんな風に俺をないがしろにするスクアーロを知らない。
息をするのも重く苦しい領域だなんて、知らないんだ。
やっと見つけた、やっと選んだ、俺の居場所であったはずなのに。
どうして?
愛してるって言ったじゃないか。
俺を攫ったんだって言ったじゃないか。
それなのに。
それ、なのに――。

「あれ…?」
クラリ、と視界がぶれる。
痛い。
痛くて痛くて仕方がない。
手足が、肌が、内臓が。
ああ、違う。
何よりも。
どこにあるのかわからない心そのものが痛むのだ。
急速に熱を失っていく指先が何を示しているのか俺にはわからない。
わかりっこ、ない。
だって俺は世間知らずなんだから。
何も知らない、子供だから。

―――たとえソレを盾にして、全てから逃げているのだとしても。

「みゃーお」
「なーん」

「…あ………」

耳朶を擽る甘い声音に意識を引き戻され、さっと降ろした目線の先には白と黒の肢体がちょこんと鎮座していた。
丸い双眸が二対、俺を見上げて待っている。
「………ただいま」
「みゃー」
「なー」
俺の言うことを理解してくれているのだろうか。
声を掛けた途端腰を上げた二匹は甘えるように足元へと擦り寄ってきた。
それだけで。
ああ、それだけで。
ここが、俺の見知ったスクアーロの『黒の館』なのだと思い直すことが出来る。
「ありがと」
ゴロゴロと喉を鳴らす二匹から返事はなかったけれど、声なき歓迎で溢れるその様子に俺は勇気付けられて。
「――出て行けって、言われたわけじゃないもん…」
それに、スクアーロは俺に『戻るぞ』って言ったんだ。
まだここにいてもいいってこと、だよね。
不安に震える指先を握りこんで、俺は扉をくぐっていった。






「スクアーロ」

「スクアーロ?」

「スクアーロ…!」


名を呼びながら一つずつ扉を開いていくも、目当ての姿は見当たらない。
一階、二階としらみつぶしに当たっているが、なんせ大きな館なのだ。
たった一人を、独りきりで探すのはとてつもない労力を要する。
…いつもなら呼べば瞬く間に俺の前へと姿を見せてくれたのに。
やはりというかなんというか、幾度名を叫んでもスクアーロは現れなかった。
目晦ましの力が途絶えたと言っていた。
…だから、なのか。
他の力も失われたのだとしたら?
俺の声に応えられなくなったのだとしたら…。
でも俺を軽々と抱えてここまで跳んできたじゃないか。
身体能力だけは残されているということ?
何故。
どうしていきなり。
「………いくら考えたってわからないに決まってるけど、さ」
そう。
結局は本人に事実を確認しない限り、俺の疑問に答えがもたらされることはない。
ならば、なんとしても俺は自力でスクアーロを見つけ出さなければいけないんだ。
俺を拒んでいるのだとしても。
俺から隠れているのだとしても。
どうして帰ってくるなり態度を豹変させたのか。
問わなければ、問うことができなければ……俺はここに居続けることが出来ないから。
「スクアーロ…」
金色のドアノブ。
俺に与えられた、俺の寝室。
今しがた、ふと気付いたのは、ここだけドアノブの色が違うということだった。
よくよく目を凝らせば細やかな花の模様が掘り込まれている。
ああ、本当に。
まるで、宝石箱のよう。
女の子が喜びそうな、大切なものを仕舞い込む、硬質だけれど暖かな――。
ひとつ瞬きをして、指を絡める。
手にしっとりと馴染むソレを捻り中を伺えば、冷ややかな空気が鼻腔を掠めた。
真っ赤な絨毯。
黒の家具。
柔らかく沈む白の羽毛布団。
光を遮るレースのカーテン。
与えられ、見慣れてしまった俺の空間。
が――やはりスクアーロの姿は見当たらない。
当然といえば当然だろう。
声もかけず、俺を置いていった彼がここにいるわけがない。
俺の部屋だ。
もしここにいるとなれば、俺に会いたがっているということになってしまうじゃないか。
――拒まれたのだから、それはない――
「っ…………」
チクン、と。
細い細い針に心臓を突かれたように、窄まる感覚を覚えた。
さっきから、なんなんだろう。
もどかしいような、息が詰まるようなこの感覚。
落胆。
空虚。
様々なよくない思考が混ざり合うみたいに。


会いたくない。


会いたくない、のかな、やっぱり。


……スクアーロが?


それとも




俺が?




――唐突に怖くなる。
もし面と向かって拒まれたら?
もう用はないと放り出されたら?突き放されたら?
言葉を交わすことも、顔を見ることも、叶わなくなったのだとしたら……。

そっと部屋へ身を滑りこませ、ドアに背をつけて座り込む。
反動でパタンと扉が閉じるのを感じながら、折り抱えた膝に額を埋めた。
自分がわからない。
どうしたいのか、どうすることがベストなのか。
突きつけられ、迫られる選択。
堂々巡りの自問自答。
問うのも答えるのも自分自身なのに、迷いこんだ思考の迷路は罠だらけで。
二匹の友人に勇気をもらったはずなのに、俺はずぶずぶと薄暗い沼に引きずりこまれそうになっている。
……わかってる。
自分だけで結論を導き出すべきじゃないって。
スクアーロに会わなければ。
でも、会いたくない。
本当に?
会いたく、ないわけ――ないはずなのに。
こうして自室に閉じこもってしまう時点で、俺はスクアーロから逃げているのだろうか。
ああ、逃げているのはどちらだろう。
無意識のうちに逃げ込んだ先はこの館で唯一の、俺だけの箱庭――寝室、で――。

『来たければ俺の寝室にも来ればいい。もれなく食っちまうがなぁ』

ふと、いつかのスクアーロの言葉が脳裏を過ぎった。
遠まわしの警告。
己の寝室には近付くなという拒絶。
くつりと笑ったスクアーロの瞳の奥は、燻るような炎を湛えているようだった。
そうだ。
俺だって、現に閉じこもったのは――。

思い至った瞬間、反射的に俺は立ち上がり、ドアノブへと手を掛けていた。
衝動にも似た……いや、それそのものが俺を駆り立てる。

ああ。

きっと、それが答え。

会わなければならない。
会わなければ、始まりもなく、終わりもない。
何度も何度も繰り返し、言い聞かせるように反芻していた言葉が


俺の、答え。


唇をくっと噛みながら、開きっぱなしの扉をそのままに俺は廊下へ駆け出していた。


 

PR
この記事にコメントする
Name :
Comment :
 


material by アルフェッカ

忍者ブログ | [PR]
 
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新コメント
[01/13 えいた]
[01/12 闇水晶]
[01/09 黄牙]
[01/09 黄牙]
[01/08 闇水晶]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
No Name Ninja
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索