あ、あぶなーい!
間違ってここに本文置いてしまうところでしたー!
変な汗かきました(笑)
というわけで(?)PHANTOM15です。お待たせいたしました………待っていてくださった方はまだいらっしゃるのだろうか…orz
毎度のことながら私が書くスクツナのツナはやたらモジモジするので困ります…「お前誰だー!」というツッコミは書いていて何度もしているので、ご容赦いただけると幸いです…。
初めてご覧くださる御方は1の注意書きからお読みいただきたく存じます。なにとぞ!なにとぞ!!
ではでは、お付き合いくださる方はつづきへお進みくださいませ~
ひゅ、と喉の奥へ沈み込んだ空気の冷たさに背筋が竦む。
冴え渡る意識が惑いに逃げることを阻むように。
動揺は……してる。
言われると思わなかったから。
きっと、言葉にしてくる人ではないと……勝手に思い込んでいたから。
と、考えるということは、少なからず俺はスクアーロに好かれていると自覚いたのだろうか。
……それはそうだ。
だって、スクアーロが仕掛けてくる口付けは、とてもとても―――。
無意識の内に引き上げた指先が自分自身の唇にそっと触れた瞬間。
背を叩くが如く、ビリビリと空気を揺らして一際大きくディンドンと鐘が鳴り響く。
ぼんやりと物思いの水底に足を伸ばしていた意識が、水を掛けられたように叩き起こされ。
「っ!」
「………きたか」
ビク、と全身を震わせた俺の眼前で、遠く、町の中心にそびえる巨大な時計塔へと視線を流したスクアーロは揺らめくようにゆったりと腰を上げた。
握られていた掌が、スルリと解ける。
(あ……)
重力に従ってぽとりと膝の上に落ちた自分の手の甲を眺めて――俺は何故かとてつもない虚無感に襲われた。
何故。
どうして。
ぽっかりと浮かび離れるように。
何かが抜け落ちてしまった、だなんて感じるのだろう。
何故、名残惜しさ、なんて…。
ただ手が離れただけなのに。
「ツナ」
「ぁ……あ、うん。何?」
「………ぼんやりするのもいいが、そろそろ戻るぞ」
「へ?あ、うん。構わない、けど…」
いやに唐突。
頭上に降り注いだ声に反応し、パッと顔を上げた俺をいぶかしんだスクアーロの間も、なんだか言葉を飲み込んだ隙、のように思えて。
俺を立たせるため、急かすために向けられた背もどこかそっけない。
―――愛してる、なんて、言っておいて―――。
………あれ?
そういえば俺、告白、された、んだよね?
告白……こく、はく?
(う、うわぁあああ…!)
すごく今更。
平静の中に宿る波紋。
俺って鈍いのかな。
スクアーロの言葉の意味が、やっと脳まで到達した感じ。
そうだ。俺、告白されたんだ。
―――どうしよう。
どうなっちゃうんだろう。
俺のことを好きだと言ってくれる人が、いるだなんて。
いや、同性だけど。
恋愛対象であるはずのない相手、なのだけれど。
それでも。
愛されていると、愛していると、告げられ、思い知らされることのむずがゆさったらない。
眩暈のような眩みは眩すぎる日差しのせいだろうか。
それとも……身体を這い、引き絞る熱のせい?
ああ、熱い。
スクアーロの告白を自覚した途端、頬がカァっと火照り出したのを感じ取ってしまった。
どうせなら気付かないでいたかったのに。
顔が、耳が、絶対赤くなっているとわかってしまうと、余計に意識してしまうじゃないか。
「う゛お゛ぉいどうしたぁ!気分でも悪いのかぁ!?」
「え!?う、ううん!なんでもない!戻る、んだよ、ね!?」
「ああ……本当に大丈夫かぁ?」
あれやこれやとグルグルし始めた思考のままに頭を抱えて俯いていた俺を振り返ったスクアーロは、何ごとかと俺の顔を覗き込もうとしてきた。
それを阻止するために顔を上げて否定してみせた、は、いいんだけど……そんなにすぐさま顔の赤みが引くなんてことあるわけなくて。
心配をかける、というのも気が引けるが、俺の焦りの要因はそこにはない。
「ほんとに大丈夫だから!それより……なんでそんなに急いで戻らなきゃいけない、の?」
考えてもみろ。
こっ恥ずかしいじゃないか。
言われてすぐ反応するならともかく、ソレをソレと気付くのに時間がかかって、今更照れて動揺してます、なんて。
知られたくない。知られるわけにはいかない!
勘付かれて、今すぐの回答を求められでもしたら……ああ、考えられない。
かき回された俺の思考では、自分の気持ちと向き合う余裕が皆無だから。
今は、今すぐは、何もない風を装わなければ。
追求されないために。
少しだけ、時間が欲しいから。
身勝手だとはわかっているけれど………少しの猶予が欲しくて。
だから、無理矢理感が漂う所だが、話題をぐいっとそらしてみた。
「……見てみろ」
俺から顔を逸らし、肩ごと背後を振り返ったスクアーロは顎で俺の視線を促す。
傾く陽光。
眩さを増した空の白。
深緑に抱かれた丘の先は、俺たちが目指すべき――。
「え」
まるで守りを失ったかのように。
屋根から外壁を伝い、ざらざらと崩れ落ちる、黒。
砂が館全体を滑り落ちていく様を連想させるようなソレは、何が起こったのか俺の脳が理解する前に全て落ちきって。
残されたのは……見たことのない姿。
俺が知っている館は、煤で薄汚れ黒く染まった有様だった。
けれど。
今、遠く、丘の突端で支配を掲げている館は真黒。
後付の要因ではなく、もとより黒として造られたと一目瞭然の在り方。
夜の闇より深く、奈落の底を思わせる、黒。
「なんで、いきなり……」
「俺の力が途絶えたからだ」
頭上でぽつりと呟かれた言葉に思わず顔が引き付けられた。
その、瞬間だった。
「……なに、あれ…!」
「どうして急に…!まさか、昔話の!?」
「馬鹿な!さっきまで何もなかったじゃないか!」
「どういうことだ!不気味な――」
ざわざわと周囲がざわめき始めた、と思ったら、水面を走る波紋の如く瞬く間に町全体が動揺に包まれたのだ。
皆一様に、俺たちと同じ方向を向いたまま。
「何?何事?」
「さっき言っただろ。俺の力が途絶えた。……厄介なことになる前に戻るぞぉ」
「力が途絶えたって、何の………目晦まし、の?」
「全ての人間の目を欺くために仕掛けておいた外壁が俺からの力の供給を失って崩れ落ちやがったんだぁ。――時間がない。行くぞツナ…!」
早口にまくしたてたスクアーロは瞳だけを左右に振り、辺りを見回してから再び館を見据える。
加えて、器用にも後ろ手に俺の手首をグイっと引いてみせて。
力のベクトルを持っていかれた身体をよろめかせれば、スクアーロの身体が俺を支えるように近付いた。
ぽす、と受け止められ、腰に腕を回され……もう、何もかもされるがままだ。
というか、思考が追いつかない。
力が途絶えた?
供給を失った?
それって…それってどういうこと?
スクアーロの常にない焦りようから言って、館を隠す必要がなくなったわけじゃない、はず。
今まで見えなくしていた館は、この町に伝わる昔話、歌のままに真っ黒で。
ついでに言うなら鐘が鳴った直後に現れてしまったわけで。
いくら忘れられかけていたとしても否応なく思い起こされる歌がある。
『ディンドン鐘の鳴る頃に』
彼が、人を、攫うのだと。
偶然か必然か、鐘の音が町全体を包み込んだ後、突然館が現れたように見えてしまったのだとしたら。
ああ、俺にだって簡単に想像できることだ。
急激な緊張感は冷静さを奪う。
『ない』ものを突如認識してしまえば、警戒心を過剰に煽るだけなのだから。
スクアーロの平穏を守るためには館は永遠に隠しておかねばならなかったはず。
だから、スクアーロが望んで力を途絶えさせたわけじゃない。
ならば。
………ならば?
「う゛お゛ぉい!だから!ボーっとしてんじゃねえぞぉ!掴まれぇ!」
「は!?うほおおえええ!?」
まるで荷物。
米俵よろしく肩に担ぎ上げられた俺は手足をばたつかせる間すらも与えられずに。
今までの展開を整理しようと巡らせていた思考を無残に引き千切りながら。
スクアーロの自身に対する目晦ましはまだ有効なのか。
ぐっと踏み込み、地面を蹴ったスクアーロの人外じみた脚力によって、俺とスクアーロの身は森に向かって一直線に飛んだのであった。
(ああ、そういえば…)
いまだに熱の引かぬ頬は赤く染まったままなのか、と。
運ばれながら、こんな熱早く引いてしまえ、と大きく揺れる鼓動を恨んで両手で顔を覆ったのは、スクアーロには秘密。
「…やっぱり、見間違いじゃないみたいだね」
スクアーロとツナが飛び立った直後。
ベーグルが入っていた紙袋だけが取り残されたベンチに歩み寄る影は、常人が見ても判別出来るほど艶やかな上質の生地で仕立てられた黒のスーツに身を包んだ――青年。
「まったくもって面倒……だけど、いい暇つぶしにはなるかな」
風に溶けるほどのささやかな独り言を紡ぎながら、内ポケットから取り出したのは二つ折の携帯電話で。
微かな動作で呼び出した相手に向かって、尊大に顎を開きながら。
途切れた電子音の後に繰り出された第一声は――。
「聞こえているかい獄寺隼人。君が探している『オヒメサマ』の居場所、知りたいとは思わないかい?」
さも楽しげに、黒髪を風に遊ばせながら、口端を弧に吊り上げたのだった。
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