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金剛堂日記


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13です!遅くなりました。
しかもえらく長々しいですorz
結構切ったのですが…今回ここまで載せておかないと後々苦しむことになりそうだったので…。
お時間が有り余る時にでもお目通しいただければ幸いです!

ではでは、どうぞ~




自覚すると表に現れるのが人間の厄介なところだ。
腹筋に力を入れて両手で腹を押さえて。
……そんなことをしてみても鳴る時は鳴るんだろうが、気休め程度に押し込める仕草を。
「……あー」
おなか、空いた。
だからといって腹の虫が鳴くのをおいそれと見逃せるほど俺は無神経じゃない。
か細く、立ち消える程度の声量で呻きを上げながら、そっとスクアーロの様子を伺う。
俺の腕を掴んだまま、古びた書店へと足を運んだスクアーロは店主らしき老人と何やら言葉を交わしている。
目当ての本でもあるのだろうか。
気を紛らわすように店内へと視線を飛ばすと、随分くすんだ色の背表紙が目立っている。
……書店は書店でも古書を扱っているようだ。
古びた紙独特の埃っぽい匂いが鼻腔を擽る。
絵や本で見て、想像するだけの場所だったのだが…。
「こんな風になってるんだー…」
スクアーロの書斎とは違う、密度の濃い空間はまるで異次元で、肌がぞわっと粟立った。
怖いわけじゃないけど、薄暗くて、天井まで書棚が伸びてて、書物が詰まってて。
別の世界に迷い込んでしまったような印象がぞくぞくとくる。
ああ。
すごい。
「う゛お゛ぉい!いつまでもぼーっとしてんなよぉ!そろそろ自分で歩けぇ」
特徴ある唸りに肩を跳ねさせ、慌てて振り返ってみれば何やら小さな包みを脇に挟んだスクアーロが呆れるように突っ立っていた。
「田舎者じゃあるまいに。きょろきょろするのは許すが注意力散漫なのはいただけねえな」
「い、田舎者って」
俺だって、この町のはずれに住んでたんだから田舎者の部類には入らないもん!
……世間知らずのレベルでは誰よりも上回ってるかもしれないけど。
むっと唇を尖らせて、反論するにできない微妙な感情を抑えながらスクアーロを見上げれば、また、いつもの意地悪い笑みが俺を見下ろしていて。
「行くぞ。どうせ腹減りまくってんだろぉ。自業自得なんだと反省するなら奢ってやらなくもないぜぇ」
「むー……奢るも何も、俺お金とか持ってないからスクアーロになんとかしてもらうしかないんだけど」
「道端で芸でもして稼ぐって方法もあるが?」
「俺に特技がないことくらい想像ついてんでしょ!」
あーもう意地悪い。性質も悪い!
わかってるくせに改めて問うなんて根性捻じ曲がってんじゃないの。
ニヤニヤ目尻を緩めている辺りが無性に腹立つ!
――ああ、そんな時にも。
「う…」
ぐう、と空腹を訴える俺の身体は正直極まりない。
「ス、ク、アーロ」
「ん?」
「ごめんなさいもありがとうもいっぱい言うから……お願いだから、何か食べさせて…」
両手で腹を覆い、完全に顔を俯かせながらの懇願。
情けないとか悔しいとか感じてる場合じゃないんだもん。
腹が減っては戦が出来ぬ。
戦をするわけじゃないけれど、空腹は罪だ。
……段々何を考えているのかわからなくなってきた。
「最初からそのつもりだっつうの。早く来い」
呆れたように、意地悪さを一変させてフウ、と息をひとつ吐いたスクアーロは、俺の手首をとって軽く引いた。
途端、薄暗さと埃っぽさが漂う箱庭から眩すぎる日差し降り注ぐ外へ。
引き出された足は躓きかけたけれど、先導するスクアーロのスピードによって強引に整えられて。
まるで夜明けだ。
こんな風に連れ出されたことなんてない。
多少の荒っぽさはあるけれど、今はそれすら楽しいなんて。
どうかしてる?
うん。でも。
「あそこに出店がいくつか出てるだろぉ。どれでも食いたいもの買ってこい」
俺はこっちで飲み物を調達してくる。
そう言いながら手渡された財布には、事前に寄り分けられていたのかコインが数枚収められていた。
「俺の分も忘れんなよぉ」
「った!」
ピシ、とデコピンを食らわせたスクアーロはさっさと背を向けて売店へと歩いていってしまった。
なんでひとつふたつ余計なことをしていくのか……と思いつつ。
楽しいなぁ、なんて思ってしまう時点で俺はどうかしてるんだ。
いいじゃないか、たまには。
『初めて』は一度しかないのだから。
こうして自分の手で何かを手に取って買うことも。
コインを握って、走りだすことも。
誰しもが経験する『当たり前』が俺にもやってきたことに改めて感謝を。
ああ、やはり。
おかしな言い方だけれど……家を出て、スクアーロに攫われて、よかった。
上着のポケットに手を突っ込んだまま悠々と歩いていくスクアーロの背をチラリと振り返ってから、力強く地面を踏みしめる。
「あー!おなかすいた!」
すれ違いざまの男女がチラ、と俺を盗み見るのも気にせずに、俺は腹を押さえながら出店の立ち並ぶ広場へと駆けていった。









「……あれは…」





漆黒の視線が一対。
人波の先から彼らを見つけだしてしまったことに……誰も気がつかないまま。















「どうした。食わねえんならそこらに置いとけよぉ。猫やら鳩やらがこぞって処理してくれるぜぇ」
「あ…うう……う、うーん……」
「なんなんだぁさっきから」
二手に分かれていた俺とスクアーロが無事合流し、目についた広場のベンチを陣取ったのが十分ほど前だろうか。
買ってきたベーグルサンドの包みを開いたのが七分前。
手に取って、いざ食らわんと口を開いたのが六分前。
それからだから、ゆうに約五分間。
俺はじっと固まったまま、まったく動けないでいた。
怪訝そうに俺を覗き込んだスクアーロは既に三口ほどかじってしまっている。
…うーん。
だってさ、今更重大な問題に気がついてしまったのだ。
空腹で気持ち悪ささえ漂い始めた俺の動きを止めてしまえるほどの、重大で重要な問題に。
もうちょっと早く気付いているべきだっただろうか。
うーん…俺ってやっぱり抜けてるなぁ。
「あ、あのさ…スクアーロ」
「あ?」
「ちょっと訊きたいんだけど」
「もったいぶらずにさっさと言え」
「………スクアーロって、働いてるわけ?」
「―――はぁ?」
ああ言葉にされずとも、スクアーロが言いたい次の言葉がよーっくわかる。
いきなり何言ってんだお前って、そんな顔してるもん。
ありありと表情に浮き出るほどの想定外な質問だったのだろうか。
いや…だってさ。
お金、だよ?
人間社会に流通しているお金だよ?
賃金を得るためには労働と引き換えだということくらいはいくらなんでも俺だって存じ上げておりますとも。
俺が今手にしている遅い昼食は、先ほど快活なおにいさんに、スクアーロから預かったコインと引き換えでいただいたものだ。
つまり、なんだ。
スクアーロはお金を持ってるってことでしょ。
てことは働いてるって、こと?
そんな姿みたことないし!
第一、怪人だと言い張る本人が人里に降りて労働を?
―――想像し難い光景だ。
それに呼べばすぐに現れるし、何かと俺に構ってくれるスクアーロが仕事してる時間なんてあるわけないじゃん。
………ならば、どうやってお金を?
考えられる方法、想像に易い手段は……あれっきゃない。
「そりゃ俺は働いたことないし、お金稼ぐなんてことまだ出来る度胸も知恵もないけどさ……だからって人様のお金で生活するのはいけないことだと思うんだよね」
「は?」
「脅したのか騙したのか盗んだのかはわかんないけど…今からでもこっそりでいいから返しにいくべきだと思う!そうじゃなきゃ俺今夜眠れる気がしないんだけど!」
「はああ?」
ベーグルを脇に置き、ポカンと口を開いたスクアーロへ向き直って手を伸ばす。
考えを改めさせなければ。
怪人、だとしても罪を犯すのはいけないこと!
人間ではないことを心の盾にして警察に届け出るのは考えないとしても、せめて償いを。
遅くはない。
いや、遅いかもしれない。
けど、贖えない罪なんてない、と思いたいんだ。
だから―――。


「――お前なぁ……勝手に俺を罪人にしてんじゃねえ!」


「いった!」



もう!今日何度目の暴力だよ!
硬く握り締められた拳が俺の頭上へと真っ直ぐに振り下ろされた。
明らかに加減された重みだったけど、痛いものは痛い!
「じゃ、じゃあ、なんでお金持ってんのさー!何の不自由もしてないって感じじゃんか!」
無尽蔵に金が湧き出るとか言い出したら俺は真っ先によいお医者様を探さなければならなくなる。
「稼いでるわけでも作ってるわけでも、まして盗んでるわけでもねえよ」
「ど、どういう…」
そっと上目に様子を伺えば、グリグリと俺を押さえつけていた拳の動きが止まった。

「―――蓄えがある。それこそ…気が遠くなるほど大昔からの、な」
「蓄え?」

俺の頭上から拳を浮かせながら呟いたスクアーロは、ふ、と目を細めた。
まるで果てなく遠い何かを見透かすように。

あ。

なんだろ、これ。
チク、と。
細い細い針に貫かれたように、肺の辺りがチリリと傷んだ。

「それに、俺は元々食べたり飲んだりする必要がない。だから、お前が来るまではその金を使う必要もなかった」
「……え?食事、してなかったの?」
「…………お前と同じものを食う必要がなかったってだけだぁ」
微かな間が、不穏な空気を含ませる。
意味を量りかねるところだが、スクアーロの言葉の裏側まで暴けるほど賢くないという自覚があるだけに、うまく返せる気がしなかった。
深く追求して正解を引き出せるほど、俺は器用ではないから。
なら、今ある情報だけで出来るだけ把握しなければならないということ。

つまり、なんだ?

「スクアーロにはめちゃくちゃ貯金があって、でもごはんを食べる必要がなかったから今まで使ってなかった、けど…」
「お前が来たから、それを切り崩して生活するようになった、ってだけだぁ。食う必要はないが食えないわけじゃないからな」
俺の身体は。
そう続けたスクアーロは己の言葉を証明してみせるかのように手の中にあるベーグルを一齧りしてみせた。
いや、まあ、うん。
スクアーロが食事できるってことは、毎食同席しているから知ってるんだけど。
「スクアーロって……」
「あん?次はなんだぁ?」
「……スクアーロって、一体何なの?」
「…それはまた……大雑把な質問だな」
くっ、と小さく笑ったスクアーロは残っていたベーグルをペロリと平らげてからゆっくりと俺を流し見た。
銀色の双眸がゆらりと揺れながら俺を捉える。
その虹彩が一瞬だけ、オーロラのようにぶれたのは気のせいなのだろうか。

「怪人って、どういう字を書くか知ってるかぁ?」
俺を覗き込みながら、スクアーロの両腕が俺を捕らえるように、囲うように、脇へ――背もたれへと付けられた。
追い詰められているような気分になるのは、何故。
「怪しい、人、でしょ」
「ふっ…『怪しい人』か。そりゃいいな」
まるで不審者扱いだ、と吹き出したスクアーロは隠す素振りもなくクツクツと笑い始めた。

……違う。

なんだろう。
何かが、違う。
この笑いは、どこか不自然だ。
唇の端が微かに引きつっているように見える。
自嘲に似ているけれど、そうじゃない。
それよりももっと、暗くて深い、濃厚な哂い。
己を貶めるような。
自らを傷つけるような――。

音もなく。
すっと息を吸い込んだスクアーロはゆっくりと瞬きながら口端を吊り上げた。




「そう。人だ。――俺は元々、人間だった」




そこらじゅうにいる、ありふれた一人間でしかなかった。




常と変わらぬトーンで吐き出された声音。
けれど。
正面から俺を射止める瞳の奥は、かつて見たことのないほど、深遠に満ちていた。




 

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