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金剛堂日記


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「さむ……」
陽は落ちきってしまい、街灯が街を彩っている。
冬が近づいているからか、点灯時間が三十分ほど早まっているようだ。
喧騒が遠く、耳に擦れる。
薄闇というには重い夜闇が世界を支配しはじめた頃、綱吉は一人、屋根の上に立ち尽くしていた。
沈みゆく斜陽を見送ってしばしの間。
移ろう街の色を見下ろしながら、己の身を抱き締めるように腕をさすっている。
「さむい、なぁ」
もう冬なんだなーと呟く息はうっすらと白み、呟きを確信へと昇華させた。
コートを羽織らず、ましてスーツの上着すら纏っていないという、ワイシャツ姿を部下に発見されたらば、きっと悲鳴を上げられるか怒鳴られるかするんだろうな、などと、まるで他人事のように考えながら。
「……さむい、んだけど、なー……」
ぼんやりと視線を持ち上げれば、雲間に星々が顔を覗かせている。
星についても星座についても知識を持ち合わせているわけではないが、あれはやけに明るいから、一等星だ。きっとそうだ。
そして、あっちが東だ。くるりと身を反転させて、透かし見るように視線を地平線へと投げる。
町並みがでこぼこだから、地平線なんて見えやしないが。
小高いわけでもなんでもなく、ただ市街地からすこーし距離を置いているだけの屋敷だ。高さを求めるような我が侭まで言ってはいけない。
「あっちの方に…スクアーロがいるのかなー…」
なんか、アジア方面に行くって言ってたから…東で、いいのか?あれ?
「でも、帰ってくるとしたら、こっちなんだよなー…」
いくらスクアーロでも自力で泳いで帰ってくるわけがないから、空港の方向を見るべきなわけだ。
…帰ってくるのだとすれば、の話だが。
九十度向きを変えながら、一際大きく息を吸い、吐き出す。
……吐くと同時に膝から力が抜けて、しゃがみこんでしまった。
ああ、女々しいなぁ。かっこわるい。
いつの間にか、こうやって帰りを待ちわびるようになってしまった。
いや待ちわびているのはいつもだ。
ただ、行動を起こしてしまうほどになったのはここ一週間ほどが初めてで。
「あー…もう、やだなぁ……」
離れている時間が愛を育む、だなんてどこの誰が言いやがったんだ。
愛は、育まれるどころか、増大するだけしておいて、俺を蝕んできているではないか。
育つなんて可愛いもんじゃない。
会うたび、会えなくなるたび、俺はどんどん一人でスクアーロを好きになっていく。
仕草を思い出して浸り、仕草を覚えておかなければと刻み、どんどんどんどん、スクアーロでいっぱいになっていくのだ。
俺の中身はいつか、沢田綱吉じゃなくって、スペルビ・スクアーロになってしまうんじゃないか、なんて、阿呆なことも考えてみたり。
……ほんと、阿呆だ。
しんどいよー。
くるしいよー。
つらいよー。
めげそうだよー。
どうすればいいんだよースクアーロぉ…。
会えばきっと満たされる。でも、会ったらまた、足りなくなる。
会いたいんだか会いたくないんだか、もうわからん。
……いや、ごめん、俺今嘘ついた。会いたい。
会えるものなら、会いたい。
一目でもいいから。いや、一目じゃ足りないけど。
会いたい。
会えない。
会いに、行きたい。

……無理だって、わかってるんだけど。

いつだって、待つことしかできない。俺から会いにいくことはできない。許されない。
身を案じられて、ヴァリアーのアジトに出入りすることは九代目や父さんから禁じられているし(俺とスクを引き離そうとしているようにも…思えるんだけどさ…考えすぎか?)
任務で世界中を飛び回るスクを、追いかけることも今の俺では難しい。
なんせ、仕事が、執務室で待ち構えているから、さ。
あはは……たまんない。
ほんと、もう……。
「スクアーロが、足りなーい!!」

「あ!あんなところにいた!ちょっ!十代目ー!!そんな格好で!!風邪ひくじゃないですか!!んなとこで何やって――あ、逃げた。ちょ、ちょっと!!待ってください十代目ー!!」
思わず叫んだら、俺を探していたのであろう獄寺君にみつかってしまいましたとさ。
全力で、逃げたけど。
もうー!何もかもスクアーロが帰ってこないせいだー!!こんにゃろー!!スクのバカぁー!!

 

「へっくし!」
「うっわ唾飛ばすなよ先輩ー!」
「あ゛あ!?生理現象にケチつけんじゃねえよ!つうかなんでお前までここにいるんだぁ!」
「えー?なんか、現場に向かってたら暇そうなレヴィがいたからさー仕事押し付けてきちゃった★」
「……あいつ、Sランク任務中じゃなかったのか?なんでこんなところに……」
「知らねー。二つ同時にこなせばボスの評価も上がるんじゃね?って言ったら喜んで引き継いでくれたけど?」
「バカばっかじゃねえかぁ…!」
「そういう先輩が一番のバカだと思うけどねー」
「う゛お゛ぉい!そりゃどういう意味だぁ!」
「そのくらい自分で考えればー?あ、ほら。手続き始まったってさ。今回の客室乗務員はどこの国の女かなーっと」
「さして興味もねえくせに……つうか、せめて違う便に乗れよぉ!」
「めんどーい」
「チっ……こっちがめんどくせぇっつうの……!」
小さなトランクを一つ抱えただけのスクアーロは、妙に楽しげな足取りで窓口へと寄っていく同僚が何かをやらかす前に止めるべく、足早に歩を進めたのだった。

04:6時の夕暮れ時

配布元
冷凍いちご 様
http://sky.geocities.jp/siromoti05/

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