行事担当の二人の登場です(…)
例によって注意書きをば。
・ヴァリツナです。
・といっても「ヴァリアー×ツナ」ではなく「ヴァリアーなツナ」です。
・人格崩壊はデフォルトです…。
・変な綱吉と可哀想なスクアーロの微妙な漫才をお許しいただけますでしょうか…?
・友情否定、恋愛未満、親愛以上、友愛外、といった感じなので、スクツナというよりはスクツナ風だと思っていただけると正解かと思います。
上記をご理解ご了承いただいた上でご覧いただけますととっても嬉しいです。
ではでは長々失礼しました。
どうぞお進みくださいませ。
「……豆まきぃ?」
「はい」
これどうぞ、と気味が悪くなるほどの満面の笑みを広げる厄介な我が部下は、目を細めて訝る俺を気にも留めず、片手鍋いっぱいの大豆を押し付けてきた。
クレイジーの豆まき地獄絵図
「節分ですよ。日本の伝統文化です。そういうの好きでしょ、隊長」
「いつから俺が日本マニアっていう設定になったんだぁ?別にどうとも思ってねえ!」
ぐいぐいと胸元に押し付けられる鍋から逃れようと身をよじるも、背にぶちあたる壁に邪魔されて避けきれない。
なんせ、ここは廊下だ。
俺はまたしてもトイレから出てきたところを襲撃されてしまっていた。
……正月にしろ今回にしろ、どうしてこいつはトイレ帰りを狙うんだぁ……。
「狙ったわけじゃありませんよ。隊長のトイレ頻度が高いんじゃないですか?」
「人を老人みたいに言うなぁ!なんだその目は!喧嘩売ってんのかぁ!!」
半眼で哀れむような視線を浴びせかけられて、黙っていられるほどお人よしには出来ちゃいない。
「大体なんで鍋なんだぁ!チキ○ラーメンとか煮るやつだろぉこれ!」
「なかったんですよー手ごろな容器が。枡なんてあるわけないし、ワイングラスっていうのもどうかと思って」
「そりゃダメだろ」
「で、ルッスーリアさんに相談したら『これでどうかしら』って渡されました」
「あいつも適当なこと言いやがるなぁ…!」
この場に居合わせていたならば、よくも余計なことをしてくれたな、と殴りかかっているところだった。
「豆まきとはー!」
「う゛お゛ぉい!勝手に説明に入るな!」
「炒った大豆を撒き、蒔かれた豆を、自分の年齢(数え年)の数だけ食べる。また、自分の年の数の一つ多く食べると、体が丈夫になり、風邪をひかないというならわしがあるところもある。豆を撒くことには、鬼に豆をぶつけることにより、邪気を追い払い、一年の無病息災を願うという意味合いがある。寺社が邪気払いに行った豆打ちの儀式を起源とした行事である。ウィキペディア参照」
「参照すんな。つうか…撒いた豆を食うって……ここは土足だぞ。やばくねえか?」
「本当は恵方巻も食べて『うわー太くて長くて大きいー!卑猥-!』とかもやろうかと思ったんですけど何かにひっかかりそうだから今回はパスするとして」
「…無視はもう慣れたけどなぁ……う゛お゛ぉい!なんだぁそれ!」
「豆まきくらいはしましょうよ!ね!」
「……どうせ、俺に鬼役をやれっていうんだろぉ!読めてんだよオチがぁ!」
痛めつけられる役は俺、と決まっているのが悔しいというより物悲しい。
俺の立ち位置はいつから『歩くサンドバック』になったのか。
普段ボスから散々暴力をふるわれ耐えているというのに、豆までぶつけられてたまるか、と言いたい。
主張くらいは許されるだろう。
そろそろ『おー人事』に電話してもいい頃合ではないだろうか。
「なに言ってるんですか。言いだしっぺは俺なんですから俺が鬼役をやりますよ。だからこうやって豆も渡してるんじゃないですか」
ほら、と付け加えて、ぐいっと。
一際強く鍋を押し付けられたのと、言葉の意味を理解して呆気にとられてしまった為、反射で鍋の取っ手を握ってしまった。
受け渡される鍋いっぱいの大豆。
香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
……あまり、食べたい、とは思わないが。
「じゃあ俺が鬼やりますから。十秒数えたら追いかけてきてくださいね」
……は?
「では!!」
しゅびっと片手を上げ、懐に入れていた鬼の面を取り出した綱吉は素早い動きで駆け出してしまった。
おい。
「豆まきって……鬼ごっこも兼ねてたのかぁ?」
知らなかった、と首を傾げながらも、俺は律儀にも正確な体内時計を頼りに十数えてしまうのだった。
「…九……十!う゛お゛ぉい!行くぞぉ!!」
「はいどうぞー!!」
「って近ぁ!!」
数メートル離れた先の曲がり角から、鬼の面がひょいと顔を覗かせる。
まさか返事が返るとは思わなかった。
なんのために逃げたんだお前。
「はっ!隠れる暇もなかったってかぁ!?覚悟しろよぉ!」
常日頃、手を焼く部下に対する鬱憤をたっぷり詰め込んで、鍋から豆を一掴み取り出す。
手は抜かねえ。
全力だ。
何においても完璧を目指すヴァリアーらしく、全力でぶつけてやろうではないか。
痛みに泣いて許しを請うても今更だからなぁ!
「う゛お゛ぉい!鬼はー!!」
スペルビ・スクアーロ、振りかぶって第一球……
「そとぉおおおおおおおお!!」
投げましたぁあああ!!
床を蹴って一気に距離を詰め、捕らえた標的に向かって握った豆を投げつける。
完璧だ。
距離も方向も申し分なく直撃必至。
ざまあみろ!
「はぁあああ!!」
パシ!パシパシパシパシパシ!!
「……はぁ!?」
「キャッチ!!」
と、優越感に浸る間に奇妙な破裂音が響き渡る。
慌てて意識を引き戻せば、普段あまり見せない本気のスピードを発揮した綱吉が、千手観音を思わせる手つきで豆全てを空中でキャッチしてみせて。
「アンド、リリース!!」
「はぁあ!?」
投げ返してきやがった。
「う゛お゛ぉい!!そんなんありかぁ!って痛ぇなおい!」
「鬼なめんな!鬼ですよ鬼!人外鬼畜なんですよ!」
「意味が違うだろぉ意味が!」
「極悪卑劣なはずの鬼が、なんで黙って豆なんかぶつけられなきゃいけないんですか!悔しかったら当ててみなさーい!」
「お前、節分完全否定なんじゃねえのかそれぇ!」
「こい!さあこい!」
「くっそぉ……!絶対泣かせてやるからなぁ!!」
こうして始まった豆まき攻防戦は、撒かれた豆によって滑って転びかけたボスのお怒りを、スクアーロが全身で受け止めるまで繰り広げられ続けたそうな。
めでたしめでたし。
「めでたくねぇ!!」
「……あれが本当の鬼なんですねえ。そうだ、隊長。ボスに豆ぶつけときます?」
「お前は俺を殺す気か」
クレイジーの豆まき地獄絵図
PR